協同組合人インタビュー特集

日本労働者協同組合連合会―協同労働による仕事おこしと地域社会の振興

「協同組合人インタビュー特集」はILO職員が協同組合に関する職務を通じて関わった協同組合セクターのリーダーへのインタビューシリーズです。本記事では日本労働者協同組合連合会理事、兼海外連携推進部長の中野理氏に取材しました。

Article | 28 November 2017

Q. 日本労働者協同組合連合会とはどのような組織ですか?

JWCU・中野理氏
日本労働者協同組合連合会(JWCU; Japan Workers’ Co-operative Union)は、1979年に設立された労働者協同組合およびそれを志向する組織、関連団体のナショナル・センターです。労働者協同組合は、投資家・経営者・労働者の役割が分かれている一般的な企業と異なり、組合員が出資・経営・労働の3つ役割を同時に担う組織です。JWCUでは2015年総会で採択した「協同労働の協同組合の原則」に基づき、「協同労働」という理念、すなわち「一人ひとりが主人公となる事業体をつくり、生活と地域の必要・困難を働くことにつなげ、みんなで出資し、民主的に経営し、責任を分かち合う」という働き方を推進するために、会員組織間の連携支援、政策提言、国際連帯活動などを行っています。

2017年3月現在でJWCUには約13,420人の労働者組合員と51,206人の高齢者組合員が参加する、25の会員組織が加盟しています。

Q. 労働者協同組合は具体的にはどのような事業を行っているのですか?

JWCUに加盟する労働者協同組合は、建物管理・公園管理などから始まり、地域の課題に応じて様々な分野に事業を拡げてきました。現在の主な事業内容は以下の通りです。2016年度、JWCU会員合計の事業高は、335億円でした。
  • 高齢者介護・福祉事業(通所介護、訪問介護、居宅介護、予防活動など)
  • 保育事業(保育園、学童クラブ、児童館など)
  • 障がい者支援事業(通所介護、放課後等ディサービス、障害者総合支援事業など)
  • 就労支援事業(地域若者サポートステーション、生活保護受給者就労支援事業、生活困窮者自立支援事業など)
  • 建物総合管理、緑化・環境、物流事業
  • 公共施設運営事業
  • 東日本大震災被災地における仕事おこし
  • 農業、林業、バイオディーゼル燃料事業など

(C)JWCU
労働者協同組合が就労支援事業を開始したきっかけの一つは、2005年に千葉県芝山町で厚生労働省の若者自立塾事業を受託したことでした。若者自立塾には就労に困難を抱える若者が参加し、集団生活や職業体験を通じて、社会復帰を目指しました。若者自立塾は、2009年で事業打ち切りとなってしまいましたが、労働者協同組合は塾に参加した若者たちとともに働く場所づくりに取り組みました。結果、2011年に地域福祉事務所あぐりーんを立ち上げ、隣接する成田空港やホテルから出る廃食油を回収してバイオディーゼル燃料(BDF)を精製し、地元企業や農家に販売するBDF事業を開始しました。以来、他4地域でもBDF事業所を設立しています。全ての事業所は労働者協同組合として経営され、精神的・社会的な困難を抱える若者のに働く場を提供しています(※あぐりーんの事例は国際協同組合同盟の労働者協同組合部門別組織であるCICOPAの動画で紹介されました。動画はこちら

2007年以降、JWCUの労働者協同組合は厚生労働省の地域若者サポートステーション事業を全国22か所で受託し若者への就労支援を実施、さらに2015年4月に施行された生活困窮者自立支援制度の枠組みのもとでは、87自治体より事業を受託し、社会的孤立と困窮を生まない地域づくりを掲げて活動しています。

このほかの例として、千葉県にある地域福祉事務所あじさいでは、軽度の発達障がいのある若者や高齢者が介護者として働き、利用者とともに支えあうコミュニティを作り出しています。

Q. 日本労働者協同組合連合会はどのように運営されているのでしょうか。

JWCUの最高意思決定機関は年1回の総会です。日本には現在、労働者協同組合を規定する法律がないため、各会員組織は、企業組合や特定非営利活動法人などの法人格を取得し活動しています。法人格は異なりますが、「協同労働の協同組合の原則」に基づき、組合員一人ひとりが出資し、一人一票の決定権と責任を持って経営に参加します。

Q. 日本労働者協同組合連合会にとっての課題と展望をお聞かせください。

日本でも、格差や相対的貧困の広がり、地域経済の疲弊などの中で、労働者協同組合は、人々が自発的に地域のために働くことを支える上で有効な手段となりうるとの期待が高まっています。このような期待に応えるためにも、JWCUにとっては「協同労働」に取り組む労働者協同組合を規定する法律の制定が、大きな課題となっています。

JWCUは2000年に設立した市民会議を通じて同法制定に向けて取り組んでいます。2008年には超党派の「協同出資・協同経営で働く協同組合法を考える」議員連盟が発足し、現在までに878の自治体で同法の早期制定を求める意見書が採択されています。2017年4月には、協同組合振興研究議員連盟が同法の制定を先行課題とすることを確認し、翌月には政府与党内に同法に関するワーキングチームが設置され、具体的な検討が開始されています。

JWCUが目指す「誰もが居場所と役割を持ち、共に働き、共に生きる持続可能な地域づくり」は国連の持続可能な開発目標(SDGs)とも呼応するものだと考えています。JWCUは事業・活動をSDGsと連携させつつ、この目標に向けて引き続き活動していきます。

----------
「協同組合人インタビュー特集」はILO職員が協同組合に関する職務を通じて関わった協同組合セクターのリーダーへのインタビューシリーズです。本インタビューに記載された見解の文責は当該協同組合に帰属します。